
文明の進化とともに変わり続けてきた「床」のかたち。 フローリングの歴史【世界編】
古代から現代までの世界におけるフローリングの歴史をたどりながら、使用されてきた素材の変遷や、重視される価値軸の移り変わりをご紹介します。
世界最古の床とは?
原始人が選んだ快適空間
地面が「床」だった時代
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人類がまだ農耕を始める前の時代には、住まいの中に「床」というものはありませんでした。洞窟や簡易な小屋の中で、そのまま地面に座ったり、乾燥させた草や動物の毛皮を敷いて過ごしていたと考えられています。地面そのものが生活の場であり、床であり、寝床でもあったというわけです。
人類最古の“マットレス”が見つかる
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南アフリカのシボドゥ洞窟では、約20万年前の人類が、虫除け効果のある植物(タデ科)を敷いて床として使っていた痕跡が発見されました。この「草のマットレス」は、衛生と快適性への初歩的な工夫の一例であり、人類が地面に“床の機能”を持たせ始めた最古の証拠と考えられています。
古代文明と床の進化
石・レンガの床と高床式住宅の誕生
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文明が発達するとともに、床もよりしっかりと作られるようになりました。古代エジプトやギリシャなどでは、石や焼きレンガで床が作られ、装飾的なモザイクなども取り入れられました。
一方で、湿気の多い地域や寒冷地では、床を地面から高くした「高床式」の住まいも登場。通気性や防虫性を確保するための工夫として、今のフローリングの考え方に通じる要素が見られます。
世界初の床暖房システムが誕生
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古代ローマでは、床の下に温風を通して部屋を温める「ハイポコースト」という仕組みがつくられました。この床暖房のような技術は、公衆浴場や貴族の邸宅で使われていたそうです。快適さを追求する考え方は、今の床暖房のルーツともいえるものです。
画像:ローマ時代のハイポコースト施設
中世ヨーロッパと
木製フローリングの発展
無垢フローリングの
原型が生まれた中世ヨーロッパ
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中世ヨーロッパでは、一般住宅では、藁、葦などを用いた簡素な床が主流でしたが、貴族の館や宗教施設では、木材を使った床が少しずつ広まり始めました。
特に丸太を製材した厚みのある無垢材を並べた床が使われるようになり、無垢フローリングの原型ともいえる存在でした。
ただし当時はまだ乾燥処理やサネ加工などの技術はまだ確立されておらず、仕上げも荒く実用性が重視されていました。
建築様式の発展とともに、
フローリングが「装飾要素」に進化
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建築様式の発展とともに、建物やインテリアに装飾性が求められるようになり、床にもデザインが取り入れられていきました。特にフランスやイタリアでは、木を組み合わせて模様をつくるヘリンボーンなどの「寄木細工」の技法が広まりました。
オークやウォルナットなどの木材を使って、手作業で丁寧に仕上げられた床は、まさに芸術作品のような美しさです。
ヴェルサイユ宮殿が生んだ
寄木細工の名作
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代表的な例として知られているのが、フランス・ヴェルサイユ宮殿です。幾何学模様を組み合わせた精巧なデザインで、床がただの構造ではなく「文化」を表す存在になったことがよくわかります。現在でもこの床は復元され、文化財として大切に保存されています。
大量生産・新素材・国際基準
フローリングが進化した時代
無垢フローリングが
“量産”される時代へ
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19世紀になると、産業革命によって木材の大量伐採や製材が可能になり、無垢材を使ったフローリングが一般家庭にも広がっていきます。アメリカでは鉄道の発展によって、森林資源が都市部にも運ばれるようになり、オークやメープルといった木材が広く使われました。
当時の住宅では、木の風合いを生かしたシンプルな仕上げが好まれ、手入れにはオイルやワックスが使われていました。今でも「アメリカンオーク」は上質なフローリング材として親しまれています。
リノリウム床材の登場と普及
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リノリウム床材とは、亜麻仁油や木粉、石灰などの天然素材を主原料とした、環境負荷の少ない床材です。
1860年にイギリスのフレデリック・ウォルトンによって発明され、1863年には特許を取得しました。その後、ヨーロッパ全域に広まり、かつては「床材といえばリノリウム」と言われるほど広く普及しました。
やがて塩ビ(PVC)床材の登場によってリノリウムのシェアは縮小しましたが、現在ではサステナブルで健康的な床材として再び注目を集めています。
「フローリングの基準」が
世界で整備され始める
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この時代には、フローリングに関する規格や基準が整えられるようになります。1956年に、ヨーロッパでFEP(欧州パーケット産業協会」が設立され、1985年にはアメリカのNWFA(木材フローリング協会)が設立されました。
これにより、誰でも同じように安心して使えるフローリングが広がっていきました。
フローリングの
「品質と信頼性」を担う
世界の主要な
フローリング団体一覧
- NWFA(National Wood Flooring Association)
全米木質床材協会。1985年設立。製造業者・施工業者・販売業者など約3,500会員を擁し、木質フローリングの施工・製品基準・研修認定制度などを策定。 - NALFA(North American Laminate Flooring Association
北米ラミネートフローリング協会。ラミネート床材に特化し、性能試験基準・製品認証制度(NALFA Certification)を運用。 - FEP(European Federation of the Parquet Industry)
欧州パーケット産業連盟。1956年設立。ヨーロッパ各国のフローリングメーカー・協会を統括し、「Real Wood」ラベルや統計調査、規格標準化などを推進。 - EPFLOOR(European Producers of Laminate Flooring)※旧EPLF
欧州ラミネート床材メーカー連盟。EN 13329(ラミネートフローリングの欧州規格)などに関与。現在はMMFAに統合。 - MMFA(Multilayer Modular Flooring Association)
モジュール式複合床材協会。SPC、WPC、LVT、ラミネートなどの多層床材の技術・品質・サステナビリティに関する国際基準を統括。近年急成長中のSPC市場においても中心的役割を果たす。
フローリングの
グローバル化と多様化
ラミネートフローリングが世界標準に
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20世紀後半になると、ドイツを中心にラミネートフローリングが普及します。木のような見た目の化粧シートをHDF(高密度繊維板)に貼りつけることで、傷や水に強いフローリングが誕生しました。
施工方法も進化し、接着剤を使わずにパチンとはめる「クリック式」によって、DIYでも簡単に敷けるようになったのがポイントです。今では世界中で生産されるフローリングの中でも、ラミネートタイプが主流となっています。
技術と環境配慮が融合する時代へ
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さらに最近では、SPC(石と樹脂を混ぜた複合素材)やWPC(木と樹脂の複合素材)など、高機能な床材が登場しています。これらは耐水性や寸法安定性に優れていて、店舗や水まわりにも使いやすい素材です。
また、環境に配慮した認証制度(FSC、PEFC、Blue Angelなど)も広まり、フローリング選びでは「安全性」や「持続可能性」も重要なポイントになってきました。日本でも、JASや建築基準法に基づく規格で、VOC対策などが求められるようになっています。
世界のフローリングの変遷

世界のフローリングは、使用される素材とその価値の捉え方を時代とともに
大きく変化させてきました。
今では、見た目の美しさや機能性に加え、環境への配慮まで、
より多角的な視点で選ばれる床材となっています。
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